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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6919号 判決

原告

上原建設株式会社

ほか二名

被告

東北大虎運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告上原建設株式会社に対し、一七〇万八〇〇〇円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して原告上原順二に対し、一八〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、連帯して原告上中英雄に対し、三四万七八〇八円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して原告上原建設株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、五五九万円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して原告上原順二(以下「原告上原」という。)に対し、五二四万八〇〇〇円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、連帯して原告上中英雄(以下「原告上中」という。)に対し、八六万九〇〇〇円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、先行車が停止したためその後続車である普通乗用自動車が停止した際、さらにその後続車である大型貨物自動車が普通乗用自動車に追突し、その衝撃により、右普通乗用自動車が先行車に追突し、普通乗用自動車が破損し、その運転者及び同乗者が負傷したいわゆる玉突き事故に関し、右被害者らが右追突車である大型貨物自動車の所有者及び運転者を相手に民法七〇九条、同法七一五条に基づき、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年一一月一二日午前一一時四五分ころ

(二) 場所 中央自動車道西宮線大阪府高槻市浦堂一丁目中央自動車道西宮線名神から五〇六キロメートルポスト先路上(以下「本件事故現場」ないし「本件道路」という。)

(三) 追突車 被告東北大虎運輸株式会社(以下「被告会社」という。)が保有し、かつ、被告及川和男(以下「被告及川」という。)が運転していた大型貨物自動車(宮城一一き五二八九、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 原告上中が運転し、同上原が同乗していた普通乗用自動車(神戸三三は九二五八、以下「原告車」という。)

(五) 先行車 訴外岡本和弘が運転していた普通乗用自動車(大阪七七よ九二三一、以下「先行車」という。)

(六) 事故態様 先行車が停止したためその後続車である原告車が停止した際、さらにその後続車である被告車が原告車に追突し、その衝撃により、原告車が先行車に追突し、原告車が破損し、その運転者である原告上中及び同乗者である原告上原が負傷したいわゆる玉突き事故

2  責任原因

被告及川は本件事故に関し、前方不注視、車間距離不保持の過失があり、被告会社は、被告及川の使用者として、その業務遂行中に生じた本件事故につき、使用者としての損害賠償責任がある。

3  損害額

被告らは、原告会社に対し、本件事故により生じた原告車の修理費三二九万円を支払い、同損害については填補済みである。

二  争点

損害額全般(原・被告の主張の要旨は、後記損害に関する判断項目の冒頭で概述する。)

第三争点に対する判断

一  損害(原告らの主張、以下の認定の概要は、別紙損害算定一覧表のとおり)

1  原告会社の損害

(一) 代車料(主張額三九四万円)

(1) 原告会社の主張

原告会社は、原告車(ベンツ)の代車として、ボルボを原告上原の知人である中村正信から一日二万円で借り受け、本件事故の翌日から修理完了日である平成三年五月二七日まで一九七日間借用したので、代車料としての損害は一九四万円となる。修理期間が長期化したのは、修理費に関する被告会社の対応が不誠実であつたためであり、その責任は同被告が負うべきである。

(2) 被告らの主張

本件で交渉が難航したのは、修理費の支払いではなく(修理費については、平成四年三月二日に被告会社の任意保険会社と修理業者との間で修理費に関する協定が成立している。)、原告会社の格落損、代車料の請求が過大であつたためであり、被告らの対応が不誠実であつたためではない。

そもそも、原告車は、原告会社の所有ではなく、原告上原の所有車であるから、原告会社に損害が生じたとの主張自体失当である。知人から自家用車を借りたのであれは、有償での賃貸は、道路運送法八〇条二項にいう「自家用自動車は、運輸大臣の許可を受けなければ、業として有償で貸し渡してはならない。」との規定に違反し、右対価についての支払義務が認められないし、原告車の所有者である原告上原は、休業していたとのことであるから、代車使用の必要性が認められず、仮に必要性が認められたとしても、国産の一般車で十分であり、ボルボを使用することが相当とは認められず、修理期間も正味三〇日で十分である。

(3) 当裁判所の判断

ア 原告車の所有者について

原告上原本人尋問の結果によれば、いわゆるベンツである原告車の購入費用は、原告会社が出し、その使用も原告会社の業務(土木・建築工事の受注等)のために使用していたこと、原告上原の個人名義にしたのは保険の都合上その方が便宜であつたことと販売会社の意向によるものであることがそれぞれ認められ、これらを総合すると同車は、名義は原告上原のものとはなつているが、その所有者は原告会社であつたことが認められる。したがつて、同車の所有者が原告上原であつたことを前提とする被告らの前記主張は採用できない。

イ 代車の必要性・相当性について

甲第一四号証の一ないし一七及び原告本人尋問の結果によれば、原告会社は、原告車の修理期間、原告上原の知人である中村正信からボルボを一日当たり二万円で借用し、原告会社の業務のため使用していたことが認められる。被告らは、右賃貸が道路運送法八〇条二項に違反するというが、右中村が「業として」有償の貸し渡しを行つていたことを認めるに足る証拠はない。また、原告車であるベンツの代車として一日二万円の賃料でボルボを借用した点も、右賃料が国産高級車を借りた場合と比較し、あまりにも高額であるとは必ずしもいえないから、不相当であるとは解されないから、この点に関する前記被告らの主張も採用できない。

ウ 代車の期間について

原告会社は、本件事故の翌日から修理完了日である平成三年五月二七日まで一九七日間代車を借用し、修理期間が長期化したのは、修理費に関する被告会社の対応が不誠実であつたためであると主張する。

しかし、修理費についての合意が成立しなければ修理に着手することが客観的に不可能なわけではない上、交渉の不誠実は本件事故とは別の問題(仮に、不法行為による損害があるとしても、本件訴訟物の枠外のものとなる。)であり、修理に必要な期間(調査、見積、部品調達等に必要な期間を含む。)は、特段の事情がない限り、車両の破損状態、車種、部品のいかん等の客観的状況によつて決められるべき問題であるから、原告会社の右主張は採用できない。

そこでさらに検討すると、前記争いのない事実に加え、甲第一五号証、第一六号証、乙第五号証及び原告上原本人尋問の結果によれば、本件事故により原告車は後部バンパー・トランク凹損、前部左側バンパー・ボンネツト凹損、左前照灯割損等の損傷を受け、後部は大破の状態であつたこと、修理箇所は七五箇所に及び修理費は三二九万円を要したこと、同車はベンツであり、部品の調達等も国産車と比較し期間を要することが少なくないことがそれぞれ認められ、このことに国産の一般車両の場合の修理期間が通例二~三週間であることは公知の事実であることを合せ考慮すると、原告車の修理のため相当な期間は四五日間(一か月半)と認めるのが相当である。

したがつて、本件事故と相当因果関係のある代車料としての損害は、九〇万円(20000×45)となる。

(二) 格落損(主張額一六五万円)

(1) 原告会社の主張

原告車は、ベンツの中でも高級な車両であり、本件事故により破損が激しく、車両価格は著しく低下し、その額は一六五万円と認めるのが相当である。

(2) 被告らの主張

原告車は、平成元年一一月に新車として登録したいわゆる並行輸入車であり、本件事故時には三年以上使用している車両であり、しかも、近時の円高により全体として時価が下落している。その上、同車の破損部分は全て新部品と交換しており、時価が上昇したのではないかと考えられる程である。原告車について格落損は生じていない。

(3) 当裁判所の判断

甲第一五号証及び原告上原本人尋問の結果によれば、原告車はいわゆる併行輸入車であり、原告会社は、正規に購入した場合と比較し、一〇〇万円ないし二〇〇万円程度廉価で購入していること、同車の初年度登録が平成元年一一月であり、本件事故日である平成三年一一月までの間に少なくとも二年程度使用していることが認められるから、本件において、購入後間がないことのみを理由とする格落損は認められない。しかし、前記認定のとおり、原告車はベンツという高級外車であり、同車は本件事故により、後部バンパー・トランク凹損、前部左側バンパー・ボンネツト凹損、左前照灯割損等の損傷を受け、後部は大破の状態であつたこと、修理箇所は七五箇所に及び修理費は三二九万円を要したことを考慮すると、高級外車として転売ないし下取りが予想され、その際の評価に後部を大破した事故車であることが影響をもたらす蓋然性が高いから、その意味での格落損は認められるべきと解される(なお、本件事故当時の同車の時価がいかほどであるかを認定するに足る的確な証拠はないので、時価の増減に関する被告らの主張は採用できない。)。しかし、甲第一五号証によれば、修理箇所の七五箇所中、五八箇所、すなわち、修理箇所の約七七パーセントは部品を取り替えており、比較的より入念な修理がなされていることを考慮すると、修理費の五割を超える格落損が生じたとする原告会社の主張は採用できず、本件においては、前記諸事情を考慮し、修理費の約二割に当たる六五万八〇〇〇円と認めるのが相当である。

(三) 小計

以上の損害を合計すると、一五五万八〇〇〇円となる。

(四) 弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告会社にとつて、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は一五万円が相当と認める。

前記損害合計一五五万八〇〇〇円に右一五万円を加えると、損害合計は一七〇万八〇〇〇円となる。

2  原告上原の損害

(一) 休業損害(主張額四五四万八〇〇〇円)

(1) 原告上原の主張

同原告は、一か月一五〇万円の給料を会社から受け取つていたが、平成三年一一月一二日から平成四年二月一二日まで九三日間欠勤し、四五四万八〇〇〇円の給料の支払いを受けなかつた。

(2) 被告らの主張

原告上原は、原告会社の代表取締役であるところ、本件事故により生じた症状は、軽度の疼痛に過ぎないから、就労が困難であつたとは考え難く、同原告の休業と本件事故との因果関係はない。傷病名として腰部捻挫が加えられているが、本件事故により腰部捻挫が生じ得るはずはなく、治療を受けていた間も業務を継続していた形跡が診療録上もうかがえ、実通院日数は四九日に過ぎないから、労働能力に大きな支障があつたとは考え難い。仮に原告上原が休業を余儀なくされたとしても、同人の報酬は役員報酬であり、利益配分的なものであつて、労働の対価部分とは認め難いから、これに対する休業損害の発生は有り得ない。

(3) 当裁判所の判断

甲第四、第六、第一八号証及び原告上原本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故時、原告会社の代表取締役であつたこと、(伊丹市長の納税証明によれば)平成二年分として申告した同原告の給与所得は一六九三万円(月額一四一万円余)であり、平成三年分として申告した同原告の給与所得は一五五〇万円(一一月、一二月分を除いたもの。月額一五五万円)であつたこと、本件事故前三か月の月収は一五〇万円であつたことがそれぞれ認められるから、本件事故時の同原告の月収は、その主張にかかる一五〇万円であつたと認められる。

ところで、右代表取締役としての所得には、役員として実際に稼働する対価としての実質をもつ部分と、利益配当の実質をもつ部分とがあり、後者は、その地位に留まる限り、逸失利益の問題は生じないものと解されるところ、甲第二一、二二号証、原告上原本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、土木工事・建築工事の設計・請負・施工等を業とする会社であり、代表取締役である原告上原の他、正社員が約七名、日雇いが約七〇名で構成され、資本金は四〇〇万円であつて、平成二年一〇月から平成三年九月までの販売費及び一般管理費は一億一四〇万三七九三円、営業利益二四七九万二九七〇円、経常利益一三三万一三〇六円であつたことが認められる。このことに前記原告会社に関する諸般の事情を考慮すると、原告上原の前記所得のうち、三割は現実の稼働の対価以外の利益配当分であるとみるのが相当であり、前記月収一五〇万円のうち、稼働の対価分は、その七割である一〇五万円と見るのが相当である。

甲第二、第三号証、乙第二号証、原告上原本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故により頸部・腰部挫傷の傷害を受け、本件事故後、荘司外科に通院したこと、同原告は、本件事故日から頸部の緊張感、軽い頸部痛、強度の腰痛を訴えていたこと、その後、同病院の医師に対し、腰痛が続き(平成三年一一月三〇日)、痛みが軽減したが(同年一二月二日)、朝起床時と運転時に痛みを感じると訴え(同年一二月九日、平成四年一月八日)、仕事は続けていると述べ(同月一三日)、車に乗る仕事が多く、長く乗ると痛むと訴える(同月一六日)るなどしていたこと、同原告が休業したと主張する平成四年二月一二日までの実通院日数は四二日であり、そのうち、本件事故から約三週間を経た以降の実通院日数は一〇日であることがそれぞれ認められる。

右治療経過によると、原告上原は、本件事故により腰部捻挫(被告らは、本件事故により同原告に腰部捻挫が生ずるとは考え難いと主張するが、前記認定のとおり、本件事故は、原告車の後部が大破するという軽微とは言い難い事故であり、右治療経過に照らしても、被告らの主張は採用できない。)と軽度の頸部捻挫の傷害を負つたところ、右傷害による労働能力制限の程度はさほどのものではなく、現実に通院していた時期を除けば、稼働を続けていたことが認められる(同原告は、平成四年二月一二日まで休業していたと主張し、当法廷においても同主張にそう供述をするが、前記証拠に照らし、信用できない。)

このことに、一般に頸部捻挫・腰部捻挫型のいわゆる鞭打ちの場合、事故から三週間程度は安静を要するが、その後は必ずしも完全な安静が必要なわけではなく、要治療期間も現実の通院日数の二倍程度と見込まれることは公知の事実であることを合せ考慮すると、同原告は、本件事故後、その主張にかかる平成四年二月一二日までのうち、同事故から約三週間は労働能力を完全に喪失していたが、その後は現実に通院した日数の二倍である二〇日間は労働能力を喪失していたものの、それ以外は稼働が可能であつたと認めるのが相当である。したがつて、同原告の休業損害は、次の算式のとおり一四三万五〇〇〇円となる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

1050000÷30×(21+10×2)=1435000

(二) 通院慰謝料(主張額七〇万円)

本件事故の態様、原告上原の受傷内容と治療経過(ことに本件がいわゆる鞭打ち事案であること)、職業、年齢等、本件に現れた諸事情を考慮すると、同原告の入通院慰謝料としては二一万円が相当と認められる。

(三) 小計

以上の損害を合計すると、一六四万五〇〇〇円となる。

(四) 弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は一六万円が相当と認める。

前記損害合計一六四万五〇〇〇円に右一六万円を加えると、損害合計は一八〇万五〇〇〇円となる。

3  原告上中の損害

(一) 休業損害(主張額三六万九〇〇〇円)

平成三年一一月一二日から同年一二月三一日まで五〇日間欠勤、甲第九、第一〇号証によれば、原告上中は、原告会社に勤務し、本件事故当時三一八万円の年収を得ていたことが認められる。

甲第七、第八号証によれは、同原告は、本件事故により頸部・腰部挫傷の傷害を受け、平成三年一二月四日までの間、青木診療所に通院(実通院日数一三日、うち本件事故から約三週間以降の実通院日数二日)したことが認められる。

したがつて、同原告の休業損害を前記原告上原の同様の方法により算定すると、次の算式のとおり二一万七八〇八円となる。

3180000÷365×(21+2×2)=217808

(二) 通院慰謝料(主張額七〇万円)

本件事故の態様、原告上中の受傷内容と治療経過(ことに本件がいわゆる鞭打ち事案であること)、職業、年齢等、本件に現れた諸事情を考慮すると、同原告の入通院慰謝料としては一三万円が相当と認められる。

(三) 小計

以上の損害を合計すると、三四万七八〇八円となる。

(四) 弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は三万円が相当と認める。

前記損害合計に右三万円を加えると、損害合計は三七万七八〇八円となる。

二  まとめ

以上の次第で、原告会社の被告らに対する請求は、連帯して一七〇万八〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、原告上原の被告らに対する請求は、連帯して一八〇万五〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、原告上中の被告らに対する請求は、連帯して三七万七八〇八円及びこれに対する本件事故の日である平成三年一一月一二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

別紙 損害算定一覧表

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